『インテレクチャル・カフェ広島(平成23年度第2回)』を開催しました!
中国地域産学官コラボレーション会議では,平成23年12月13日(火),ひろしまハイビル21において,今年度第2回目となる『インテレクチャル・カフェ広島』を開催しました。
インテレクチャル・カフェ広島は,大学の若手研究者と産業界・金融機関・行政等が交流し,新技術・新製品の開発や新事業を生み出すネットワークを形成することを目的とした交流会です。これまで,各大学(広島大学,広島市立大学,広島工業大学,県立広島大学,近畿大学工学部)ごとに持ち回りで開催してきましたが,今年度は,複数の大学で共通のテーマを設定して共同で開催することとし,「ロボット・RTの活用」をテーマとして開催した今年8月の第1回に続く今回は,県立広島大学,広島国際大学,広島工業大学の3大学共催で,「地球環境とテクノロジー」をテーマとして開催しました。
コラボレーション会議の事務局を務めるコラボレーションセンターより,当日の開催概要についてご紹介いたします。
当日は,年末の慌しい時期にもかかわらず,約70名の方々にご参加いただき,幹事校を務めていただいた広島工業大学の鶴学長の開会挨拶でスタートしました。鶴学長からは,「今年の漢字に決まった『絆』という字は,切れない糸を表しており,相手を尊重する,相手の立場を思いやる心が込められているように思う。産・学・官の絆が切れないよう互いの理解を深め,絆をさらに太いものにしていきたい。」とのお言葉がありました。
開会挨拶に続いて,各校を代表して3名の先生方から,話題提供としてそれぞれ取り組んでおられる研究の概要についてご紹介いただきました。
◆話題提供@ 「ナノカルシウムによる放射性セシウムの処理技術」
県立広島大学 生命環境学部 環境科学科 准教授 三苫 好治 氏 (⇒「プレゼン資料@」参照)
まず最初に,県立広島大学の三苫先生から,土壌中に吸着した放射性セシウム(以下,Cs)を効率的に処理する技術についてご紹介いただきました。
東日本大震災に端を発する原発事故により,周辺地域への放射性物質の拡散が深刻な社会問題になっています。土壌中のCsは,最終的には粘土内部のNa,Ca等の層状鉱物内に強く捕捉されるため,作物に吸収される量はごくわずかと考えられてきましたが,実際には,周辺地域で収穫された玄米から規制値を上回る量のCsが検出されるなど,作物への放射能汚染は広がりを見せ始めています。このような状況の中,三苫先生は,土壌中に吸着したCsをより安全な形態にすること,しかもそれを可能な限り省資源・低コストで達成することを目指して,ナノカルシウム法を用いた土壌改良剤の開発に取り組んでおられます。
従来の技術は,汚染された土壌全体を水洗/高温処理した後にセメント等で固化する方法などが一般的で,排水処理,土壌の変質,大量の廃棄物処分などが課題となっていました。これに対して,三苫先生が開発中の技術は,乾燥(微粒子化)した土壌にナノカルシウムを添加・混合し,高濃度Csを含む微粒子だけを付着させて表面近くに集めることによって,磁石等で除去しやくすくできるため,廃棄物(汚染土)の大幅な減容化が可能となります。また,土壌内に残存する比較的低濃度のCsを含む粒度の大きなものに対しては,リン系の固化剤を添加し,被膜を形成して粘土内部により強固に保持することによって,作物への吸収を抑えることができるそうです。「ナノカルシウム土壌改良剤」の一日も早い実用化が待たれるところです。
◆話題提供A 「新たな空調システム実現のための取り組み」
広島国際大学 工学部 住環境デザイン学科 講師 深川 健太 氏 (⇒「プレゼン資料A」参照)
続いて,広島国際大学の深川先生からは,人間の温冷感覚を左右する様々な要因を詳細に検討することによって,より効率的な設備の運用が可能となる,新たな空調システムの実現に向けた取り組みについてご紹介いただきました。
水辺にいると,市街地にいる時と比べて,実際に気温はそれほど違わなくても涼しく感じることがあるように,人間の温冷感覚にはかなり曖昧なところがあります。実際,それぞれ寒色/暖色で塗られた天井・床・壁で囲まれた部屋にいる人間が感じる温度は,最大で0.4℃もの差があり,また普通の部屋に水辺の写真を飾るだけで体感温度が0.3〜0.4℃下がったという実験結果もあるそうです。
深川先生は,この人間の温冷感覚の曖昧さを上手く利用することにより,従来よりも消費エネルギーを削減することが可能となる,環境にやさしい空調システムの実現向けて取り組んでおられます。その中でも,特に人体の「局所温冷感」と「全体温冷感」の関係により,必ずしも全身ではなく足裏だけを局所的に冷やしたり暖めたりすることで必要な冷暖房効果が得られることに着目し,靴の内部に局部を直接冷却・加熱する機能を組み込むことを目指して,研究を進めておられます。深川先生によると,様々な実験を行った結果,足裏を冬季条件で暖めた時よりも,夏季条件で冷やした時の方がより効率的な結果が得られることがわかってきたそうです。また,靴に冷却・加熱機能を組み込む点については,充電(バッテリー)・放熱が課題であり,まずは室内用の靴からスタートし,マットレスに足を乗せている間に充電(非接触)する方法が現実的ではないかとおっしゃっておられました。
◆話題提供B 「地球温暖化に伴う氷河の変化」
広島工業大学 環境学部 地球環境学科 教授 内藤 望 氏 (⇒「プレゼン資料B」参照)
最後に,幹事校を務めていただいた広島工業大学の内藤先生からは,地球温暖化に伴う南極やヒマラヤ等における氷河の変化について,最新の科学的知見や未解明の課題をご紹介いただきました。
地球上の氷の約90%は南極にあり,マスコミ等では「地球温暖化によりこの氷が全部融けると世界の海面が70mも上昇する」とよく紹介されていますが,内藤先生によると,南極の気温はとても低いので,21世紀中に1.8〜4.0℃程度気温が上昇したとしても,この程度の温暖化では氷の融点(0℃)を上回ることはなく,氷が融けてなくなることなどあり得ないそうです。実際には,地球上の氷の1%にも満たない極めて少量の山岳氷河の方が気温上昇の影響を受けやすく,南極よりもむしろ海面の上昇に与える影響が大きいというから驚きです。
山岳氷河の中でも,内藤先生が特に注目されているのはヒマラヤの氷河です。ヒマラヤは降雪が夏季4ヶ月に集中しているという特徴があり,こうした「夏雪型」の氷河は,気温が上昇すると雪が雨に変わって降雪量が減少することに加えて,氷河表面が新雪で覆われることが少なくなって反射率が低下し,太陽熱を吸収しやすくなるため氷河が縮小しやすく,「冬雪型」よりも地球温暖化の影響が大きいそうです。現在,山岳氷河の縮小に伴って,氷河から流出した水による氷河湖が急速に拡大しており,地球温暖化による海面の上昇よりも,むしろ氷河湖の決壊・洪水による事故の発生が懸念され,危険度評価・対策が急務であるとのことでした。
氷河湖は氷河が縮小した結果できるものですが,その氷河湖に接する氷河は圧縮流が弱まって速く薄くなるため氷河が縮小し,氷河湖のさらなる拡大を促すというメカニズムが存在します。内藤先生は,この氷河縮小と氷河湖の相互作用メカニズムに注目しておられ,現在,パタゴニアの氷河を対象に氷河底の流動メカニズムに関する研究を推進しておられるとのことです。
◆交流会
話題提供の後,中国経済連合会の副会長を務めていただいているマツダ(株)の井巻・相談役最高顧問の乾杯挨拶に続いて,軽食と飲み物による立食形式の交流会が行われ,恒例となった中国経済産業局の井辺局長の一本締めで閉会となるまで,会場の至るところで活発な情報交換が行われました。
(中国経済連合会 桑原)