コラボレーションセンター活動レポート

インテレクチャル・カフェ広島(平成23年度第3回)』を開催しました!

 中国地域産学官コラボレーション会議では,平成24年1月27日(金),ひろしまハイビル21において,今年度3回目となる『インテレクチャル・カフェ広島』を開催しました。
 インテレクチャル・カフェ広島は,大学の若手研究者と産業界・金融機関・行政等が交流し,新技術・新製品の開発や新事業を生み出すネットワークを形成することを目的とした交流会です。これまで,各大学(広島大学,広島市立大学,広島工業大学,県立広島大学,近畿大学工学部)ごとに持ち回りで開催してきましたが,今年度は,複数の大学で共通のテーマを設定して共同で開催することとし,今年度最後となる今回は,広島大学,近畿大学工学部,産業技術総合研究所中国センターの3機関共催で,バイオ分野「ゲノム情報を用いたタンパク質酵素の産業応用」をテーマとして開催しました。
 コラボレーション会議の事務局を務めるコラボレーションセンターより,当日の開催概要についてご紹介いたします。

 当日は,産業技術総合研究所中国センターの中村所長の開会挨拶でスタートしました。中村所長からは,「本日の話題提供のテーマであるバイオ分野は難しそうに思われるかもしれないが,分かり易く話してもらえるはずなので期待していただきたい。最初の話題は深海の火山から採取してきた耐熱性酵素をセルロースの分解というバイオマス産業に応用する話で,興味を持っていただけると思う。2番目の話題はDNAを増幅する反応であるPCRという方法を利用する話で,この反応には熱を加えることからポリメラーゼという耐熱酵素が必要になるということで,ここでも酵素が活躍している。これらの話題提供について,万一,分かりにくい点などがあれば,交流会の場なども利用していただいて,活発な議論をしていただければと思う。産総研は今後とも地域のイノベーション・ハブとして機能していきたい。」と挨拶がありました。

 開会挨拶に続いて,各機関を代表して3名の先生方から,話題提供としてそれぞれ取り組んでおられる研究の概要についてご紹介いただきました。

◆話題提供@ 「バイオマス有効利用を目指した耐熱性酵素の開発」
   産業技術総合研究所 バイオマス研究センター 主任研究員  石川 一彦 氏

 石川先生からは,深海で発見された耐熱性微生物が生産する超耐熱性セルラーゼの発見と実用化についてご紹介いただいた。 

<概 要>
 今回,産総研で発見・実用化した超耐熱性セルラーゼは100℃付近の温度帯でも熱安定性があり,しかも最適温度が105℃であることから,従来の最適温度が80℃の酵素等と比較して,単純に沸騰させても問題ないということで温度コントロールが容易で,しかも雑菌汚染の回避というメリットがある。
 超耐熱性セルラーゼは非結晶セルロースを可溶化する酵素で,セルロースの非結晶部分を分解するとゴワゴワ感がなくなることから洛東化成工業鰍ナはデニム繊維の加工・毛羽取りに利用し,この酵素のハンドリングの容易さを活かして大量生産を可能にしている。産総研では,超耐熱性セルラーゼと合わせてセルロースを更に細かくするために超耐熱ベータグルコシダーゼも開発している。
 その他,産総研では木材を粉砕してセルロースにする際の投入エネルギーを減少させる前処理技術も開発した。具体的には,富山の潟Xギノマシンが開発したウオータージェット(高水圧水を噴射して金属加工を行う装置)を同社と共同で改良して,スターバーストシステムという木粉を微粒子・微細化する技術を開発したものである。このスターバーストシステムによる木粉の微細化によりセルロースから糖液,セルロースナノファイバー,リグニン抽出などへの,目的に応じた処理制御が容易にできるようになった。
 産総研では自己糖化植物(超耐熱性セルラーゼの遺伝子を組み込んだ植物で,微細化して加熱するだけで糖化反応を起こす植物)も開発した。

 最後に広島大学の白濱先生から木質セルロースからエタノールを作るだけでなく,バイオプラスチックを作る研究も行わないのかという質問があり,石川先生から既にその方向の研究も行っているとの回答がありました。

◆話題提供A 「細胞1個当たりの「mRNA・タンパク質・代謝産物数の簡易定量方法」の開発 」
   広島大学大学院 理学研究科 准教授  島田 裕士 氏  氏

 島田先生からは,生物の生命現象を理解するために必要な細胞1個当たりの生体分子(mRNA*1,タンパク質,代謝産物)の数を,高価な機器を用いるのではなく,比較的安価なリアルタイムPCR装置を用いて簡単に定量する方法についてご紹介いただきました。

<概 要>
 細胞1個当たりの生体分子数を定量するには,細胞内で数量の変化の少ないゲノム量*2を使用することとした。
 ゲノム量の定量に当たっては,最近,比較的安価になったリアルタイムPCR装置とPCR阻害剤耐性DNAポリメラーゼ酵素を用いた。
 この結果,細胞1個当たりのmRNA数とタンパク質数を定量することができた。 この結果,ゲノム量に着目し,リアルタイムPCR装置を活用する方法は,細胞1個当たりの生体分子(mRNA,タンパク質,代謝産物)の数を比較的簡単に定量するのに有用であることが判明した。

  *1:タンパク質を作る際,遺伝子情報を伝える物質
  *2:生物の特性を規定する遺伝情報の数量で,生物の種類毎に決まる。

◆話題提供B 「極限酵素の産業利用〜微生物が持つ酵素から新たな可能性を探る〜」
   近畿大学(工学部) 次世代基盤技術研究所 社会連携センター長 客員教授  江口 知之 氏

 当日,話題提供を行う予定であった仲宗根先生が急病のため,代理で江口先生が極限酵素の研究概要について説明されました。

<概 要>
 地球上には高塩濃度,高圧力,高温,高い放射線下など極限環境にも生息可能な微生物が存在するが,これらの微生物が持つ極限酵素を利用して,産業に役立てる研究を行っている。
 極限酵素利用の例としては,好アルカリ性微生物が生産する耐アルカリ性極限酵素を洗剤に利用する例や,耐熱性酵素であるDNAポリメラーゼを犯罪捜査のDNA複製に用いる例が世の中で広く知られている。
 本学でも高圧力に適応した「深海微生物」,高塩濃度を好む「高度好塩微生物」を研究対象とし,耐圧性ナノデバイスの開発や,有機溶媒に耐性を有する産業用酵素の基礎研究など,新しいバイオテクノロジーの可能性を切り開く取り組みを進めている。

◆交流会

 話題提供の後,山下当連合会会長の乾杯挨拶に続き,軽食と飲み物による立食形式の交流会が行われ,中国経済産業局の藤岡地域経済部長の一本締めで閉会となるまで,会場の至るところで活発な情報交換が行われました。

(中国経済連合会 小泉)