『地域イノベーション創出2011 in おかやま』を開催しました!
中国地域産学官コラボレーション会議では,平成23年7月20日(水),岡山コンベンションセンターにおいて,今後の科学技術の方向性,中国地域の「地域産学官共同研究拠点」,産学官連携事例などを紹介するシンポジウム『地域イノベーション創出2011inおかやま』を開催しました。
当日は,台風6号の接近・通過による影響が懸念されましたが,約250名もの方々にご参加いただき,盛況のうちに無事終了することができました。ご来場いただいた皆様に心より感謝申し上げます。
コラボレーション会議の事務局を務めるコラボレーションセンターより,当日の開催概要についてご紹介いたします。
◆開会挨拶
最初に,この6月に中国経済連合会の会長に就任され,本シンポジウムが産学官の公の場でのデビューとなる山下会長より,「震災からの復旧・復興に加え,アジア新興国との激烈な国際競争,人口減少・高齢化社会の到来などに対応しつつ,地域が持続的に発展していくためには,産学官連携を有効に活用し,高度で競争力のある技術・製品開発,人材育成を行うことが喫緊の課題である。中国経済連合会としても,『新結合プラン』に基づいた様々な活動を積極的に支援・推進していきたい。」と挨拶がありました。
続いて,(財)岡山県産業振興財団の島津理事長からは,「岡山県では,今年度,『おかやまメディカルイノベーションセンター』,『おかやま次世代自動車技術研究開発センター』が設置され,イノベーションが期待されているが,その一方で,大学の技術シーズのほとんどが県外企業へ技術移転されており,共同研究も同様という現状もある。イノベーションを実効あるものにするには,地域の産学官が結集して取り組むことが喫緊の課題である。」と挨拶がありました。
最後に,中国経済産業局の井辺局長から,「平成14年の開催から回を重ねて10年,産学官連携の広がり・深み・範囲も拡大・強化されてきている。震災からの復旧・復興,少子高齢化,環境・エネルギー問題,デフレ・国内需要の減退など課題が山積しているが,産学官が連携して新たなイノベーションを創出し,未来を開いていくことが重要であり,本日のシンポジウムを通じて,参加者の皆さんの何らかのヒントになればありがたい。」と挨拶があり,シンポジウムがスタートしました。
左から,山下会長(中国経済連合会),島津理事長(岡山県産業振興財団),井辺局長(中国経済産業局)
◆基調講演 「第4期科学技術基本計画について」
総合科学技術会議 議員(常勤) (元東京工業大学学長) 相澤 益男 氏 (⇒「講演資料」参照)
今回のシンポジウムでは,基調講演として,総合科学技術会議の相澤議員をお招きし,現在策定が進められている「第4期科学技術基本計画」についてご講演いただきました。講演の主な内容は以下のとおりです。
<危機に直面する日本>
今回の東日本大震災は,数々の課題を提起しているが、それは国内だけではなく世界が注目をしているものである。特に世界のエネルギー政策に大きな影響を与えている。「我が国は科学技術が強い国」という看板を恥じることなくこれからも全うし、これを意識しつつ復興を成し遂げていかなくてはならない。その一方で,我が国の科学技術のシステム・マネジメントには大きな不備があることが判明し,今後その検証や対策を次のステップアップのために進めていく必要がある。一方、震災発生時に既に危険信号が灯っていた少子高齢化・人口減少,経済の低迷,科学技術における我が国の立場の危機的状態,日本のイノベーション創出のフォーメーションの変化への対応(例えば産学官連携はこのままの形でいいのか)などについても合わせて解決に向けて取り組んでいかなければならず,そのためには,科学技術の推進・イノベーションの創出が必要である。
<科学技術基本計画の実績・課題>
我が国の科学技術の推進は,第1〜3期の科学技術基本計画に沿って約15年間にわたって進められ,重点推進分野では多くのイノベーションが創出されたが,社会的な課題に結びつくものがどれだけあったのか。国民の関心の高いものにイノベーションで応えていくことが、ビジネスにも繋がり、拡がりを持つものとなる。また,基礎研究についてもレベルは高いが,中国等に肉薄されており,更なる強化が必要である。
「地球環境,気候変動,自然災害の克服」,「資源・エネルギーの安定確保」等の世界的に共通する課題や,我が国が先行する「人口減少,超高齢化社会」,そして「大震災からの復興・再生」等の課題を,科学技術・イノベーションで見直してみると、今後は従来のような,技術シーズをいかに実用化するかという観点ではなく,発想を逆転して,何が解決されるべき重要課題かを最初に設定し,それを克服するにはどういう技術を展開したらよいか検討する,さらには複数の分野にまたがる多様な知を集積することにより新たな価値を創造する,そしてその価値(課題解決)によって我々にプラスになる社会が開かれるという構図となっていく。
<第4期科学技術基本計画の策定>
第4期の科学技術基本計画は,「分野別重点」から「課題解決型」への転換と,これを科学技術とイノベーションにより一体的に推進することが大きな特徴であり,併せて基礎研究・人材育成を強化する内容となっている。また策定にあたっては、社会とのコミュニケーションを十分に取りながらすすめてきた。昨年12月に最終答申をまとめており,3月末までには閣議決定される予定だったが,震災の発生を受け,震災からの復興・再生の実現,エネルギーの安定的な確保,科学技術政策の検証・強化という課題を織り込んで再検討を行っている段階である。
最終答申(12月)からの変更は部分的ではあるが,大きな修正を行ったのは,「グリーンイノベーション」,「ライフイノベーション」という二大イノベーションに,もう一つの柱として,「震災からの復興・再生の実現」を追加した点である。また,基本認識として,基本計画を,新成長戦略の一環のみならず,震災からの復興・再生,災害対応強化の一環という位置付けとした。「グリーンイノベーション」についても修正されており,従来の低炭素化の実現に加えて,安定的なエネルギー供給を同時に実現するため,再生可能エネルギーを大幅に拡大する(太陽光・木質バイオマス以外にも間口を広げる),自立分散エネルギーシステムを推進するといった内容になっている。
第4期科学技術基本計画の策定については,8月中の閣議決定を目指して順調に進んでおり、補正予算や来年度予算についても、それに沿って進行している状況である。
大震災の復興を成し遂げつつ,極めて危機的状況にある我が国を何とか新しい方向に向けるため,科学技術の政策面から努力しており、この政策策定のプロセスに積極的にご協力いただきたい。
◆トークセッション 「地域産学官共同研究拠点の目指すもの」
基調講演に続いて,中国経済産業局の藤岡部長の司会進行により,「地域産学官共同研究拠点」をテーマとしたトークセッションが行われました。「地域産学官共同研究拠点」は,地域における産学官連携を加速させるため,文部科学省の21年度補正予算でJSTの執行事業として整備された施設であり,公募事業として実施され,原則として各県1箇所ずつ,全国で40箇所に設置されました。中国地域では5県揃って採択され,今年2〜5月にかけてオープンしています。
(⇒「中国地域の地域産学官共同研究拠点」参照)
セッションでは,まず,それぞれの拠点の整備・運営の中心的な役割を果たしておられる方々から,順番に,各拠点の施設や目指すべき方向性についてご紹介いただきました。(詳細につきましては,各説明資料をご参照下さい。)
拠点名称 | 説明者 | 説明資料 |
とっとりバイオフロンティア | 鳥取大学大学院 医学系研究科 教授 押村 光雄 氏 | 資料@ |
島根先端電子技術研究拠点 | 島根県産業技術センター 所長 吉野 勝美 氏 | 資料A |
おかやまメディカルイノベーションセンター | 岡山大学大学院 医歯薬学総合研究科 教授 公文 裕巳 氏 | 資料B |
ひろしま医工連携・先進医療イノベーション拠点 | 広島大学理事・副学長(社会連携・広報・情報担当) 岡本 哲治 氏 | 資料C |
やまぐちイノベーション創出推進拠点 | 山口大学産学公連携・イノベーション推進機構 イノベーション支援部門長 堤 宏守 氏 | 資料D |
各拠点に関する説明が一通り終わった後,基調講演に引き続き本セッションにご参加いただいた相澤議員から,以下のとおりコメントをいただきました。
その後,今後の共通的な課題として,いかにして名実ともに地域の産学官が結集する拠点にしていくべきか等について活発な意見交換が行われましたが,総括すると,新しいイノベーションを創出するには,組織や人の壁を越えたより広域な連携が不可欠であり,また,科学技術の革新だけでなく,社会のシステム・制度の変革についても一体的に進めていく必要があることが再認識されたセッションとなりました。
◆産学官連携の取組紹介
〜先導的事例の紹介〜
○『大阪大学“共同研究講座”−産学官連携の新しい形−』 (1社3千万円/年で学内に常駐、いま27講座に)
大阪大学 工学研究科 教授 後藤 芳一 氏 (⇒「講演資料」参照)
トークセッションの後は,産学官連携の取組紹介が行われ,最初に先導的な事例として,大阪大学の共同研究講座について,後藤教授からご紹介いただきました。主な内容は以下のとおりです。
<共同研究講座の概要>
大阪大学「共同研究講座」は,企業から資金・研究者等をご提供いただいて,大阪大学内で共同研究を行う組織であり,現在28講座(累積31講座)が設置されている。文部科学省の「スーパー産学官連携本部事業」に大阪大学から応募して採択された際に,提案の中に共同研究講座制度を盛り込んだもの。現在,大阪大学が受ける共同研究費のうち22%を「共同研究講座」からの収入が占めている。
具体的には,企業が3年程度で事業化を目指すテーマについて,学内に講座と研究室を設け,企業からは1社あたり年間約3,000万円の出資と,数名の研究者の派遣をいただいている。企業からの研究者に対してはその実績に応じて”招聘教授”・”招聘准教授”等の称号を付与し,大学からは,教員・若手研究者を配置(ポスドクは人件費も負担)する。
大阪大学では,Industry on Campusを理念としており,「学内にどれだけ人がいるのかで大学の活力が決まる,よって,外の人にいかに来てもらうか」を考えている。「共同研究講座は」,それを実践するものである。
企業にとっては,学内に常駐することで,大学の現場に密着して連携を進められる。プラズマであれば、レーザも含めて様々な分野の教員に相談できる,化学では交渉して分析装置を活用していたり,学科内のゼミや海外著名研究者の講演会に参加する例もある。従来からの共同/委託研究や寄附講座等と異なるのは,企業の人が学内に常駐して研究する点にある。溶接・アナログ回路・高分子などでは,企業の実務では課題が多くありながら,大学では研究対象になりにくい場合もある。それを自ら学内で研究できる利点もある。
<今後の産学官連携>
日本の産学官連携には,@官のため(明治維新期:官営工場,殖産興業等),A産業のため(高度成長期:産学一体での経済成長),B米国モデル(1990年代頃から:大学発ベンチャー,TLO等)という3つの潮流があり,現在もこの3つが底流にある。いずれも間違いではないが,これからの日本にぴったりと合致していないのではと考えている。第4の潮流を自分達で作っていかなければならない。
その点, Industry on Campusの理念と「共同研究講座」は新しい産学官連携に向けた大阪大学としての実践である。さらに今年度から「協働研究所」の制度を始めた。新設の11,000u,1フロア1,000uの研究棟のスペースを月3,000円/uで貸す。2フロア借りた企業もあり,自社の研究所の一部が学内に移ってくる。共同研究講座より一層踏み込んだ連携を進めている。
これらとは別に,地域の中堅・中小企業と大学・研究機関との実践的な連携は大切である。一般に高い専門性を持つ企業は連携先を全国に求め、一般のレベルでは密接にやりとりできる地元の大学や公設試が有効になる。いずれにしても,企業のニーズに合致する技術シーズを持つ研究者を適確につなげる機関や人材が必要である。その枠組み・仕組みを進化させる必要がある。コーディネータ等の支援人材の基準化,資格・能力の見える化も重要であり,それにより真に優れた人材を適切に評価して活用できる。これらについては,中小企業基盤整備機構による検討結果が参考になる。
〜中国地域における産学官連携事例発表〜
○『中国地域産学官コラボレーション会議活動報告』
中国経済産業局 地域経済部 参事官(産学官連携・産業クラスター担当) 大原 晃洋
中国地域産学官コラボレーション会議では,重点取り組みテーマ(H22〜H24)として『新結合プラン』を掲げ,組織を越えたより広域での産学官連携を推進しており,その活動内容・成果・今後の予定等について,積極的に情報発信・共有することとしています。
今回のシンポジウムでは,事務局を務めるコラボレーションセンターと参加81機関における平成22年度の取組実績および平成23年度の取組計画について紹介がありました。
⇒詳細につきましては,本ホームページの「主な活動状況」に掲載しておりますのでご参照下さい。
○岡山県における産学官連携の具体的事例
@『第7回キャンパスベンチャーグランプリ全国大会特別賞受賞紹介』
岡山大学大学院生 兵田 朋子 氏 (⇒「発表資料」参照)
開催地である岡山県からは,最初に,昨年の「第9回キャンパスベンチャーグランプリ中国」において,見事テクノロジー部門の最優秀賞に輝き,さらに全国大会でも特別賞「TDK賞」・「MIT賞」をW受賞された,岡山大学大学院の兵田さんから,受賞プランである『イムノクロマト法による呼気凝縮液中の好中球マーカーの検出』についてご紹介いただきました。
本プランは,気管支喘息(ぜんそく)の重症度を,イムノクロマト法により簡便に判定できる検査法を発案し,ビジネスプランとして提案されたものです。イムノクロマト法そのものは,従来から尿,妊娠,インフルエンザの検査等に広く利用されていますが,これを喘息の検査に適用し,呼気を吹きかけ色調の変化を判別するだけの,使い捨て可能な簡易な検査キットを開発した点に高い新規性があると評価されました。この検査キットが実用化されれば,患者さん自らが重症度をどこでも簡単に判定でき,治療方針や薬剤の選択等に利用できるようになると期待されています。
A 『森と人が共生するSMART
工場モデル実証について』
岡山県グリーンバイオ・プロジェクトマネージャー 小田 喜一 氏 (⇒「発表資料」参照)
(産業技術総合研究所中国センター イノベーションコーディネータ、元岡山県工業技術センター所長)
最後に,岡山県の事例として,岡山県グリーンバイオ・プロジェクトの小田マネージャーから,『森と人が共生するSMART工場モデル実証』についてご紹介いただきました。
岡山県では,現在,木質バイオマス資源から高機能でより付加価値の高い革新的な新素材「セルロースナノファイバー」の製造に取り組んでおられます。「セルロースナノファイバー」は,鋼鉄の5倍の強度で5分の1の軽さという特性を有しており,その低コスト・量産技術が確立できれば,日用品や家電製品のみならず,自動車・飛行機など幅広い用途に展開することによって,大幅に収益性が向上できると期待されています。
平成22年度からは,従来から蓄積してきた技術・知見等を基に,文部科学省の科学技術振興調整費「気候変動に対応した新たな社会の創出に向けた社会システムの改革プログラム」に採択された「森と人が共生するSMART工場モデル実証」事業に取り組み,ナノファイバー関連では500nmレベルの粉砕に成功されています。また,新エネルギー関連では,軽量で施工が容易な薄膜系太陽電池モジュールの開発,独立電源用小型風力発電機の試作機の設計完了など着実に成果を上げられています。
◆閉会挨拶
シンポジウムの閉会にあたって,今年4月に産業技術総合研究所中国センター所長に就任された中村所長より挨拶がありました。挨拶の中で中村所長は,「産学官連携は目的ではなくあくまで手段で,産学官連携によって何を実現するかということを明確にすることが必要であり,地域にある課題を抽出し,その解決を目指す中からイノベーションを起こしていきたい。」と述べられました。そして,「なでしこJAPANのワールドカップ優勝は,決して偶発的に起こったものではなく,メダルを取るんだ!優勝するんだ!という強い意志,そして戦術・戦略を凝らしながら各人が持ち場をしっかり守りながらやった結果が成果として現れたと聞いている。産学官連携のメンバーの皆さん,そしてご来場の皆さんが統一した意識を持って,日本を元気にしていきたい!この中国地域から風を送りたい!という思いで一緒に頑張っていきたい。」と力強い呼び掛けがあり,シンポジウムは終了となりました。
◆交流会
シンポジウム終了後,2Fレセプションホールに会場を移して,約130名もの方々にご参加いただいて交流会が盛大に開催されました。交流会には,相澤議員・後藤教授をはじめ今回のシンポジウムでの講演者・発表者の方々にもご参加いただき,会場の至る所で活発な情報交換が行われました。
(中国経済連合会 桑原)