コラボレーションセンター活動レポート

インテレクチャル・カフェ広島(平成24年度第2回)』を開催しました!

 中国地域産学官コラボレーション会議では,平成24年12月19日(水),ひろしまハイビル21において,今年度第2回目となる『インテレクチャル・カフェ広島』を開催しました。
 インテレクチャル・カフェ広島は,大学の若手研究者と産業界・金融機関・行政等が交流し,新技術・新製品の開発や新事業を生み出すネットワークを形成することを目的とした交流会で,今年で5年目となります。今年度は,年間の共通テーマを「医療・健康関連分野」とし,8/30に開催した第1回(テーマ『新たな医療機器の開発に向けて』)に続き,『福祉機器・用具の開発』をテーマに第2回を開催しました。
 コラボレーションセンターより,当日の開催概要についてご紹介いたします。

 当日は,県立広島大学の赤岡学長の開会挨拶に続いて,各校を代表して3名の先生方から,話題提供として,それぞれ取り組んでおられる研究の概要についてご紹介いただきました。

◆話題提供@ 「膝が痛い人の歩き方の特徴とそれを改善する運動の開発」
   広島国際大学 保健医療学部 准教授  木藤 伸宏 氏   (⇒「プレゼン資料@」参照)

 変形性膝関節症(膝OA)とは,膝関節の内側にある軟骨が磨耗等により溶けて消失し,次第にO脚になっていく病気であり,現在,60歳以上の高齢者の3人に1人が罹患している。一般的に「治療=人工関節の手術」というイメージがあるためか,病院・クリニックに行く患者は1割にも満たず,ほとんどの患者が薬または運動療法などで治療を行っている。
 これまでの研究で,3次元動作解析システムを活用し,歩行時に膝関節にどのような負荷がかかっているかを分析した結果,内側方向に回転する力が大きく,それが痛み・こわばりに繋がり,歩く速度が遅くなって日常生活に支障を及ぼす主原因になっており,回転する力を軽減することが治療に有効であることが確認できた。従来,膝OAの治療には,運動によって膝の筋肉を鍛えることが有効といわれてきたが,回転力を減少させるためには,臀部の後方にある,足を持ち上げるための筋肉を鍛える必要がある。
 今後の研究課題としては,動作解析システムの改善が挙げられる。より多くのデータを収集・解析するためには,病院・クリニック等の臨床現場でも活用できる,簡易で使い勝手の良いシステムを構築するとともに,骨だけでなく皮膚の動きも考慮した解析が行えるようにプログラムを改良する必要がある。また,患者の特徴(運動療法の効果が得られやすいかどうか)を抽出し,治療方法の選択に活用していきたいと考えている。

◆話題提供A 「脳卒中後に麻痺や高次脳機能障害が残った人に対するリハビリの問題点と装具開発」
   広島大学大学院 医歯薬学研究科 脳神経外科学 研究員  濱 聖司 氏   (⇒「プレゼン資料A」参照) 

 人間は,足・膝・股関節の屈伸や骨盤の回転などを連動させることによって,安定かつ効率的な歩行を実現しており,その際,重要なのが,踵が床に接地する時の衝撃を吸収する足首の動き(底屈)と,腰(骨盤)を前方に押し出すことによって膝の屈伸を補助する動きである。脳卒中を患うと,この2つの動作を上手く行うことができず,歩行が困難になってしまうため,スムーズな動作を補助・支援する装具の研究開発に取り組んできた。
 足首の底屈については,従来,油圧で制動を調整可能な装具が用いられてきたが,非常に高価である。そこで,背面の底屈制動部分に弾性素材(クッション)を挿入した簡易で安価な装具を新たに開発し,歩行分析によりその有効性を確認した。また,腰を前方に押し出す動きについては,臀部(大腿骨大転子)の後方にある皮膚上の溝(くぼみ)に密着・固定する部品を内蔵したベルトを新たに開発し,通常の歩行はもちろんのこと,野球のピッチングなどの動作にも有効であることが確認できた。
 脳卒中後には,注意障害(一つのことを継続できない,二つ以上のことを同時にできない),左半側空間無視(左側に注意が払えない,左側にあるものに気付かない)等の高次脳機能障害が残り,生活の妨げになることがある。特に車の運転は大変危険なため,当院では,リハビリテーション科・脳神経外科(てんかん外来)・他科(眼科,精神科など)と連携し,自動車運転の適否評価を実施している。また,脳卒中は,抑うつ状態・意欲低下を引き起こすこともあり,その他にも様々な障害・影響を及ぼす可能性があることを十分認識しておく必要がある。
 最近の研究としては,がん細胞に対する放射線治療法の一つである,ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)に関連した新たな薬剤デリバリーシステムの開発に,広島大学脳神経外科で取り組んでいる。

◆話題提供B 「福祉用具の開発のあゆみ」
   県立広島大学 保健福祉学部 教授  大塚 彰 氏   (⇒「プレゼン資料B」参照)

 平成5年に「福祉用具の研究及び普及の促進に関する法律」が制定されて以来,多くの企業が市場に参入し,商品化が活発に行われてきた。そして,少子高齢化の進展や,障害の重度化・多様化などを背景に,福祉用具は急速な進歩を遂げつつある。福祉用具の使用目的として重要なのは,「対象者の運動機能およびADL(Activities of Daily Living)能力の改善拡大,さらにQOL(Quality of Life)の充実」と,「家族を含む介護者の介護労力の軽減」であると考えており,これまで多くの福祉用具の開発に携わってきた。
 開発してきた用具は,サリドマイド薬禍障害児用の電動義手など機能性を重視した義手が比較的多いが,機能を多少抑えても,より実物に近い義手を開発したいと考えるようになり,装飾性(ヒトの手指に近似した外観・動き,操作時の姿勢)と能動性(補助手程度の作業性)を合わせ持った「能動装飾義手」という新しいコンセプトで,研究開発に取り組んでいる。また,義手以外では,立ち上がり時の垂直動作を補助する用具,和室用車椅子(座椅子タイプ),お風呂・トイレの介助用具,食事動作・意思伝達を支援する用具,障害者用スキーなどを開発してきた。
 最近では,テコの原理を応用して寝返り動作を介助する木製の用具『カンコロ君』や,砂浜歩行専用の5本趾履物『鷺ラッポ(裸歩)』を開発し,いずれもユーザーからも高い評価を得ている。

◆交流会

 話題提供の後,中国経済産業局の井辺局長の乾杯挨拶に続いて,軽食と飲み物による立食形式の交流会が行われ,中国経済連合会の山下会長の中締めで終了するまでの間,会場の至るところで活発な情報交換が行われていました。

 次回(平成24年度第3回)は,1月23日(水),『iPS細胞等バイオ技術の実用化に向けて(仮)』をテーマに開催する予定ですので,皆様ぜひご参加下さい。 

(中国経済連合会 桑原)