『地域イノベーション創出2012 in しまね』を開催しました!(H24.9.13)
中国地域産学官コラボレーション会議では,平成24年9月13日(木),松江市・くにびきメッセにおいて,中国地域におけるイノベーション創出の機運を一層高めるため,産学官連携活動の取組事例や地域の視点で考える産学金官連携の方向性等を紹介するシンポジウム『地域イノベーション創出2012inしまね』を開催しました。当日は,約240名もの方々にご参加いただき,盛況のうちに無事終了することができました。ご来場いただいた皆様に心より感謝申し上げます。
コラボレーション会議の事務局を務めるコラボレーションセンターより,当日の開催概要についてご紹介いたします。
◆開会挨拶
最初に,開催県を代表して島根県の溝口知事より,「国内・県内ともに大変厳しい状況にある中,状勢の変動があっても多くの消費者に愛好され続けるモノづくりが必要であり,そのためにはイノベーションの創出が欠かせない。今回のシンポジウムが大きな刺激・ヒントとなって,技術・製品の開発に繋がることを期待している。」と挨拶がありました。
続いて,中国経済連合会の山下会長からは,「地域経済が持続的に発展していくためには,地域の強みであるモノづくり産業の強化が必要であり,産学官連携を通じたイノベーションの創出が大きな柱となる。コラボレーション会議はそうした意識・活動を共有する場であり,今後も連携促進のための環境づくりに努めていきたいと考えており,皆様方のご理解とご協力をお願いしたい。」と挨拶がありました。
最後に,中国経済産業局の井辺局長から,「現在の日本はやせ我慢の経済を続けているのが実態である。イノベーションにより需要の創出や既存の商品の差別化を推進していくことが重要であり,今回のシンポジウムおよび交流会で,新たな発展・出会い・ビジネスの”気付き”を持ち帰っていただきたい。」と挨拶があり,シンポジウムがスタートしました。
左から,溝口知事(島根県),山下会長(中国経済連合会),井辺局長(中国経済産業局)
◆記念講演 「出雲神話と医薬・看護」
国立大学法人島根大学 学長 小林 祥泰 氏 (⇒「講演資料」参照)
古代出雲は,医薬・看護の発祥の地である。出雲神話には,因幡の白ウサギの怪我がガマの穂で回復する,大火傷を負った大国主命(おおくにぬしのみこと)を女神が薬を塗って助けるなど,古事記の中で唯一薬(処方を含む)が登場する。また,出雲風土記には全国最多の61種もの薬草が記載されており,特にトリカブトは,古代名を「於宇」と云い松江の古い地名,意宇郡に通じ,猛毒を減毒して特効薬にする先進技術を持った集団が存在したと推測され,古代出雲は,日本の医薬ナンバーワンの地域であったといえる。
島根にとって,古代出雲文化が存在したことは非常に大きな財産であるが,それが十分に活かされているとはいえない。現在,古事記編纂1300年を迎え大変注目されているが,今後,古代出雲文化をさらに研究し,産学官の連携の下で地域のイノベーション創出・活性化に繋げていきたい。島根大学では,学部の壁を超え,学際的なネットワークで産官学による研究を目指し「島根大学出雲文化学際研究ネットワーク」を立ち上げた。産官学のテーマとして,古代出雲文化が栄える基礎となった要素・条件などを含む「島根ジオパーク構想」にも取り組みたい。地域の大学は,センターオブコミュニティが重視されている。我々も地域を活性化する大学になれるように頑張っていきたい。
◆基調講演 「産学官連携による地域イノベーション」
(独)科学技術振興機構 理事長 中村 道治 氏 (⇒「講演資料」参照)
(元 (株)日立製作所 執行役副社長)
<科学技術イノベーション>
昨年からスタートした第4期科学技術基本計画は,第1〜3期までとは内容が大きく異なる。産業界は従来の成功体験・事業の延長ではなく,新たな成長分野にシフトしていかなくてはならない。また,強靭な社会・経済の実現,グローバル化・国内空洞化の対策,エネルギー・資源の安定確保,グローバル人材の育成も重要である。
科学技術イノベーションの主役は産業界である。イノベーションをより短時間で確実に創出することが求められ,多様な人材,技術・知識,資金,制度,市場・ニーズ等をつなぐ”場”を形成する必要がある。イノベーションを実現するためには,基礎研究の積み重ねが重要である。また,これからのモノづくりには,新しいサービス・インフラを生み出す「コトづくり」の視点が必要であり,コンセプトデザイン力や価値の連鎖(Value
Chain)が重要になってくる。
<JSTの取り組み>
今年からスタートした中期計画では,新たな試みとして,JSTとしての重点分野(@グリーンイノベーション,Aライフイノベーション,Bナノテクノロジー・材料,C情報通信技術,D社会技術・社会基盤)を明確にした。そして,研究開発と平行してイノベーション創出のための国としての基盤(ソフトインフラ)を確立することを目標に掲げている。
JSTの役割は,コトを興すためのつなぎ役と,リスクテイク(民間・大学では困難な研究開発のサポート)であると考えており,具体的には,5つの重点分野について,それぞれどの部分に注力するかという指針(議論のたたき台)として,戦略プログラムパッケージを設定したほか,戦略的な基礎研究の推進などに取り組んでいる。最近,特に力を入れているのは,「新技術説明会」と「研究成果最適展開支援プログラム(A-STEP)」であり,いずれも着実に成果を上げつつある。
<地域からのイノベーション創出・国際展開>
イノベーション創出には,コーデイネーター(つなぐ役割)の存在が重要であり,各機関が連携してコーディネート活動を行う必要がある。また,地域という枠に閉じることなく,地域から創出されるイノベーションが,日本全体,さらには国際社会においてどういう意味・位置づけとなるのかという視点を常に持つ必要がある。JSTとしても,研究開発のグローバル化を積極的に推進したいと考えており,国際産学連携,特に知財・特許化支援を中心にサポートしていきたい。
<研究拠点&ネットワーク>
これからは,チームとして成果をあげる,国を強くするという視点が重要であり,組織や分野を超えて多様な研究者・技術者が集結し,under one
roof で研究開発を進める「共創場」を構築するとともに,日本全国にその中核拠点,サテライト拠点,個別研究グループを配置・育成し,ネットワーク化して知識・技術・装置を共有することが必要である。
◆経済産業省の産業技術戦略 「共同研究成果の実用化に向けて−技術研究組合制度の活用など−」
経済産業省 産業技術環境局 技術振興課 課長 藤原 豊 氏
(⇒「資料@(共同研究成果の実用化に向けて)」参照)
(⇒「資料A(平成25年度産業技術関連概算要求の概要)」参照)
<「技術研究組合制度」の概要と歴史・変遷>
「技術研究組合制度」は,企業からの出資金で組合(公的な共同研究プラットフォーム)を作るものであり,1961年の設立以来50年続いているが,最近また注目を浴びている。本制度の特徴・メリットとしては,法人格を有している,税制上の優遇装置が受けられることなどが挙げられる。企業(特に大企業)が保有している特許の利活用を促進するためにも,本制度を活用したカーブアウト(事業の一部切り離し)による「大企業発(ベンチャー)の研究開発」の一層の創出が期待されるところである。
技術研究組合の設立数は,サンシャイン計画などの大型プロジェクトがあった1980年代後半から90年代前半にかけて一度ピークを迎えた後いったん落ち込んだが,3年前に法律の大改正(※)を行ったことで大幅に増加しつつある。
(※)主な改正内容:組合員数の緩和(2者で設立可能),研究対象の拡大(サービス分野など),大学・独立行政法人の組合員資格の明確化など
<「技術研究組合」の現状と課題>
「技術研究組合」は,異業種連携研究型,同業種連携研究型,垂直連携研究型,実証型,共同利用型など,様々な活用パターンがあり,研究分野,組合員数,ナショナルプロジェクト(公的資金)の有無なども様々で,多様な使われ方をしている。中国地域では,残念ながら山口県に1組合あるのみである。
本組合は,多くの研究主体を参加させる「仕組み」としては有効に機能しつつあるが,株式会社化など事業体へと発展していないことが課題となっている。今後は,この仕組みの活用を通じて,研究開発段階から迅速かつ円滑に事業化・実用化段階に移行させることができるよう,積極的に支援していきたいと考えている。
◆産学官連携・イノベーション創出の取組紹介
@(株)コーポレーションパールスター 専務取締役 新宅 光男 氏 (⇒「発表資料」参照)
同社のものづくりの姿勢は「社内一貫生産」であり,コンピュータ制御の機械で編まれた下地に,習熟したスタッフが機能を吹き込むというやり方で,オンリーワン商品を作り出している。同業他社が,分業化/機械化に流れ,不毛な価格競争で市場からの撤退,廃業・倒産を余儀なくされる中,機能性くつ下に特化するという独自のスタンスで危機を乗り越えてきた。
平成16年に「あぜ編みくつ下(あぜ編みによる持続保温くつ下)」,その後も,「転倒予防くつ下」,「外反母趾対策くつ下」と,次々と独自技術をベースとした新商品を開発・販売して,下請企業からの脱却・自主独立企業への転換を実現し,2009年からは4年連続黒字を達成している。その原動力・転機となったのが,産学官連携である。補助金,装置メーカーとの共同開発,大学との共同研究(高いエビデンスによる宣伝効果を含む),金融機関からの支援,さらにはコンテスト入賞等をきっかけとしたマスコミ報道など,「産学官+金報」連携を効果的に活用したことが,現在の経営改善につながっている。
A松江エルメック(株) 代表取締役 曽田 康男 氏 (⇒「発表資料」参照)
<事例1> 松江工業高等専門学校の産学官交流応援団「松江テクノフォーラム」設立
松江テクノフォーラムは,平成13年,当時の宮本校長の「企業に対して単に人材を供給するだけでなく,シーズを磨いて技術提供をすることも必要」,「教育だけでなく,松江高専の自立の観点を重視し,自らが産学連携に奔走すべき」との熱い想いを受けて設立された団体である。松江高専と地域産業界等との交流を深めることにより,地域産業の活性化を図ることを目的に,技術交流・共同研究の促進,技術振興のための講演会・研究会の開催などを行ってきた。松江高専の産学官連携に対する意識改革が起こり,受託研究件数日本一になるまでに至った背景には,本フォーラムの存在が大きく寄与していると考えている。
<事例2> 松江エルメック(株)「戦略的基盤技術高度化支援事業」(サポイン)の採択
同社は,1985年に松江市の誘致企業として設立し,1987年に本稼動開始した会社で,当初は高速遅延線(ディレイライン)に特化していたが,近年コモンモードフィルタの生産も始めた。採択されたサポイン案件は「次世代高速通信に有効なノイズ除去部品の開発」であり,島根県産業技術センター,(株)エレック北上と共同で研究開発を進めている。本採択には,JST地域産学官共同研究拠点整備事業「島根県電気電子産業技術高度化支援拠点」の採択をきっかけに,県の電気電子関連産業への支援および島根大学との連携の強化,さらには電波暗室棟等の実験設備の新設等の施策が矢継ぎ早に展開されたことが大きく貢献した。
現在,研究は順調に進んでおり,実用化されれば,日本初の新原理によるノイズ除去・吸収製品となることは間違いない。今後も産学官の連携を更に深め,世界一の製品を開発できる「技術立国日本」の名声を得るべく,精進努力してその任を果したいと考えている。
◆パネルディスカッション 「地域の視点で考えるイノベーション」
<モデレータ> 島根県産業技術センター 所長 吉野 勝美 氏
<パネリスト> ナカシマメディカル(株) 常務取締役 藏本 孝一 氏
国立大学法人山口大学 大学研究推進機構 産学公連携センター長 堤 宏守 氏
(株)山陰合同銀行 常務執行役員 小田 光則 氏
(公財)鳥取県産業振興機構 代表理事理事長 金田 昭 氏
中国地域の産・学・金・官を代表される方々にご参加いただき,『地域の視点で考えるイノベーション』をテーマにパネルディスカッションを実施しました。
最初に,地域を元気にするための取り組みについて,パネラーから各機関の事例などをご紹介いただき,「地域への貢献に向けての取組や提言」,「地域を越える連携・グローバル」などについて,これまでの取組事例や課題のご紹介,今後の産学金官連携に向けたご提案などをいただきました。
<ナカシマメディカル>
大学の先生からの一言がきっかけで医療事業をスタート。「人工関節の機能高度化研究会」,「知能化医療システム研究会」の2つの研究会を設立。2ヶ月に1回程度の頻度で,これまでにそれぞれ100回近く研究会を開催。医療機関・医師や大学・研究機関と一緒になって,機器やシステムの試作・実験・改良・検討を繰り返し行っている。本研究会があるからこそ,海外メーカーに対抗しうる製品を作れていると考えている。
<山口大学>
当大学では,これまでと同様に技術的な産学公連携の他,新しい形の産学官連携(地域との連携強化)を実施。地域を元気にしようと,特に県内の一次産業の活性化支援を実施。具体的には,地元の農産物・水産物などの販路拡大やブランド化に向け,生産者と連携しパッケージや商標を一緒に開発。人と人を繋げることによる地域活性化の事例。大学全体で地域を盛り立てて行こうと活動している。
<山陰合同銀行>
企業・創業・第二創業の方は,創業・新商品開発時などの入口部分では,国・県や金融機関等も比較的手厚い支援を行う。企業にとって時間・資金ともに必要となる成長期にセカンドファンドの組成などによる支援が必要と考える。新事業展開には事業ビジョンの確立・浸透や経営資源(ヒト・モノ・カネ)の活用,販路開拓などに対し,産学官と一緒になり「ハンズオン」機能を発揮することが地方金融機関の役目と考える。今後は,我々が有するネットワーク,コンサル機能,人材育成のノウハウなどを,産学官の中に入れさせていただいて,イノベーション創出のお手伝いをしたい。
<鳥取県産業振興機構>
県の経済成長戦略に基づき,環境・エネルギー,次世代デバイス,バイオ・食品関係など8つの分野を中心に取り組み。中でもエコカーに力を入れており,(株)ナノオプトニクス・エナジーのある米子市を中心に,街中を走る生活にやさしい交通サービスの提供を目指した取組を推進中。また,「とっとりバイオフロンティア」では,主に染色体工学を用いたネズミによる医薬品や機能性食品の開発・評価を実施。当財団が管理法人。
財団同士が連携した中国地域の商談会に参加いただくことで,企業同士の付き合いが拡がる機会となる。
<島根県産業技術センター>
我々地域にいる者にとって,地域に貢献することが大事な責務。非常に難しいところでもあり,逆に面白いところでもある。地域の産学金官が有効に機能する背景には地域の資源,伝統,環境と同時に地域発の突出した人が重要。また,これからは県をまたぐ連携も必要になる。地域を越える連携は言うは易く行うは難しである。県をまたぐ連携には国の施策による支援が効果的。
◆交流会
シンポジウム終了後,1F多目的ホールに会場を移して,約100名の方々にご参加いただいて交流会が盛大に開催されました。交流会には,溝口知事・小林学長をはじめ,今回のシンポジウムでの講演者・発表者の方々にも多数ご参加いただき,会場の至る所で活発な情報交換が行われました。
(中国経済連合会 桑原)